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猫の魚辞退

タイトルは長続きしないものの例え。映画・読んだ本の感想メモ。追記したり書き直したりも多いからあんまあてにならない。 日付は観た日付とは限らない。

2025'05.06.Tue
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2009'02.05.Thu
猫を抱いて象と泳ぐ猫を抱いて象と泳ぐ
小川 洋子

文藝春秋 2009-01-09
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天才的で謎に満ちたチェス・プレイヤーの話。

この人の描く主人公は大抵、自分の得意なことをちゃあんと把握していて、その世界の中にかっちり収まり、その世界における最高の方策で物事を詩的に語り、思考はのびのびと広げ、存在はできるだけ小さく折り畳んで、静かに静かに息をして「いた」人だ。
そう、この人の小説は大抵「今はなくなってしまった存在」について書いているので、どんなに素敵なことが起こっても、「ああ、しまいには哀しい結末を迎えるんだな」とか「今はもうそうではないんだろうな」と、覚悟しながら読む。

この小説もそういう小川洋子的世界にかっちりと収まる小説で、だから安心とも言うし、期待通りとも言えるし、でも・・・でも他と変わらないとも言える。
こういうのが読みたいからこの作家が好きなはずなのに、この妙な物足りなさは何なのだろう。

いしいしんじの最近の作品について、「期待される、いしいしんじ的なものばかり書いているのも難だものね」と考えたことを思い出した。
読者は勝手なもので、作家は恐ろしく大変なものだ。
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2009'01.20.Tue
まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)まほろ駅前多田便利軒 (文春文庫)
三浦 しをん

文藝春秋 2009-01-09
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どう考えても町田市がモデルの「まほろ市」(マボロシ!)を舞台にした、便利屋さんと居候が人んちの事情や事件に巻き込まれまくるエンターテインメント。
文章も歯切れよく、とても面白く一気に読んだ。

読んだのだが、やっぱり自分には「居候が居着くのを許す」感覚がよく分からない。
でもよくあるよね。風来坊が居着いちゃって、迷惑なんだけど全然出て行く気配がなくて、でも、一緒に暮らしてみたら案外上手く行って、主人公もちょっとプラスの方向に変わることができました、みたいな居候モノ。

銀色夏生が昔『つれづれ日記』で「友達でも誰でも、来たお客さんが一体いつ帰るのか分からない時に凄くストレスを感じる」と書いていて、なんてこと書くんだ!と思いつつちょっと共感したのだけど、その共感と真逆の所に「居候小説」がある。
面白くてもそもそもの所で理解に苦しむ。

いや、そういう自分のとこに誰かが居着けば、プラスの方向に変われるってことかな?
2009'01.07.Wed
オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
米原 万里

集英社 2005-10-20
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子供のころにチェコの学校で習った舞踏教師オリガ・モリソヴナの人生を、大人になってから追う話。
・・・『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』の教師版といえるか。
あちらはノンフィクション、こちらは実在の人物をモデルにしたフィクションという違いはあるけれど。
歴史小説としても、謎解きものとしても、壮大で本当に面白かった。

本当は人を探す過程で、調査や手続きの間には、長い待ち時間や無駄骨がたくさんあるのだろうけれど、物語の中で、極力それは省いてあって、だから推理小説の謎解き編部分だけを凝縮して読んでいる感じ。するすると情報がつながり、人がつながり、どうなる?どうなる?と一気に読んでしまった。

プラハに住んで、日本に戻ってきて、国の体制や文化のいい部分、悪い部分を体感している著者のおかげで、歴史に振り回された人の悲劇を描いても、共産主義こえー!旧ソ連こえー!という単純な図式にならない所もよかった。
2009'01.04.Sun
四とそれ以上の国四とそれ以上の国
いしい しんじ

文藝春秋 2008-11
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2009年最初に読み終えた本。
「うーん」と本を閉じて妹に押しやったら、「寝る前に読むと、どこまで読んだか分からなくなる類?」と聞かれる。
「あー的を射ているね」
「最近のいしいしんじって、みんなそんな感じ」

四国が舞台の短編をまとめたもの。
四国とか、九州とかに行くと、自分の下地には一切ない、独特の文化や、土地そのものの渦巻く力みたいなものをもろに感じる。その、体感した力の奔流を文章として叩きつけると、こんな感じになってしまうような気がする。
もちろん文章は独自のものだし、「なんかよくわかんないけど、いしいワールドだね」で済ませてしまおうと思えばできるのだが。

自分はこういうのを「いしいしんじ」に求めてはいないのだけれども。
でも、求められているものを提供し続けるだけになってしまったら、それはそれで作家として終わってしまう気もするしねえ・・・。
いしいしんじが「この形」をずっと続けることはないだろうけれど、ちょっと今後しばらくは手を出しづらいな、とは思った。
2008'12.12.Fri
幻影の書幻影の書
柴田 元幸

新潮社 2008-10-31
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絶望のどん底にいた主人公(・・・が多いねオースター作品)の気持ちを引っ張り上げてくれたのは、短い期間に数本の良作を残して謎の失踪を遂げたサイレント映画作家の作品だった。映画作家の研究本の著作に没頭して、人生のピンチを乗り切った主人公は、謎の失踪の真相に巻き込まれていく・・・というような話。

祖父を思い出した。
祖父は日記やスクラップをこまめにする人で、旅先でもらったパンフレット、切符、食堂の箸袋、私が食べたお子様ランチの旗などなど、たくさんの記録をこつこつ積み重ね、そして死ぬ前に、それらを全部焼いた。

オノ・ヨーコを思い出した。
強烈な才能の傍にいて、強烈な影響を与え続けた人。
「夫を作品にした女」とまで言われた人。

展覧会なんかに行くと思うことが蘇った。
作品の形で「自分」を後世に晒し続けるって、画家は実際どういう気分なのかしら?
誇らしいかしら?いたたまれなくはないかしら?(人によるでしょうけれど・・というか、もう亡くなっているのだから聞きようがないけれど)

残したいという欲求、自分だけのものとして留めておきたいという欲求、自分の定めた終末に到達してこそ完成を見るという美意識。
作家に限らず、人が生み出す「作品」について、あれこれ考えてしまう小説でした。
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